東京地方裁判所 昭和37年(行)8号 判決 1971年4月17日
原告 高橋繁正
被告 東京陸運局長
訴訟代理人 上野国夫 外二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、本案前の判断
道路運送法にいう自動車運送事業の免許のごとき場合には、設立中の会社の発起人は、その名において設立中の会社のために事業免許の申請をすることができると解するを相当とする。同法施行規則四条二項一二号も右のことを前提とするものであると解せられる。けだし、会社がその事業を営むために設立される場合にあつては、もし設立の後になつて免許を受けることができないときは、会社は設立の目的を失い解散するほかはなく、かくしては解散にいたるまでに生ずる会社経費も無視できないというべきであるから、設立中の段階において上記のような方法により免許申請をし、事業活動の法的可能性を確めたうえで、会社を設立することが社会経済上合理的であると考えられるからである。ところで原告が設立中の会社たる弥栄自動車株式会社の発起人代表であること、原告が右発起人代表として、設立中の同社のために本件申請をしたこと、被告が右申請を却下する旨の本件処分をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。したがつて、原告は、本訴において本件処分の取消しを求めるにつき適格を有する。
二、本案の判断
1 本件処分の経緯について
東京都区内における一般乗用自動車運送事業の免許につき、被告が道路運送法一〇三条二項に基づき昭和三五年七月四日付で東京陸運局自動車運送協議会に諮問し、同協議会が同年一二月二四日今後おおむね一年間に二、〇〇〇輌程度の車輌増強を行なう(この場合において、一人一車制の個人タクシーを免許するときは、その供給輸送力を考慮し一輌を〇・五に換算する)ことが必要と認められる旨の答申をし、その措置を実施するにあたつての要望事項を付したため、被告が昭和三六年一月七日右答申に基づき同事業の供給輪送力の増強に関する基本的方針を策定し、これを同法施行規則六三条一項の規定により別紙一のとおり公示したこと、この基本的方針によれば、既存事業者(一人一車制個人タクシーを除く。)に対しては一、二〇〇輌程度について事業計画変更(増車)の認可を行ない、新規免許の申請者に対しては残余の輌数について免許を行う予定であつたこと、前記原告の本件申請につき被告が調査を開始し、同年五月三〇日聴聞を実施のうえ、同年八月三一日付六一東隆自旅に第五二三六号をもつて、本件申請は同法六条三号および五号に該当しないとしてこれを却下したこと、原告が本件処分に不服であつたので同年一〇月三日運輸大臣に許願したが、その後三か月を過ぎた現在まで裁決がなされていないことはいずれも当事者に争いがない。そして、<証拠省略>によれば、右増強措置に際して申請のあつた件数は、原告と同様の新規免許にかかるものは法人タクシー四百数十社約一〇、〇〇〇輌余り、個人タクシー約四、〇〇〇人であつたことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。
2 違法理由の一について
道路運送法の採用する免許制が憲法二二条の保障する国民の職業選択の自由に対する制約であることはいうまでもない(最高裁昭和三八年一二月四日判決参照)。したがつて、同法六条一項各号は一般自動車運送事業の免許をする場合の基準を定めてはいるが、右各号の定める免許基準はきわめて抽象的、多義的であるので、事案の処理にあたり多くの補助職員を指揮して免許申請の審査を行う行政庁としては、多数の免許申請についてそのいずれが右の免許基準に適合するかどうかを適正かつ公平に判断するため、審査手続の開始前に、内部でこれをできるだけ具体化した審査基準(具体的審査基準)を設ける必要があり、このことは法の要請するところであるというべきであり、また、審査手続について同法は聴聞に関する規定(同法一二二条の二、同法施行規則六三条の三)を設けるだけであつて、上記の具体的審査基準の告知、公表についてはなんら規定するところがないが、右の具体的審査基準は法の委任に基づくものではなく行政庁が内部的に設ける判断基準にすぎないものであるにかかわらず、実際上は法規同然のものとして適用されて免許の許否がなされること、および免許の許否が国民の職業選択の自由にかかわるから、具体的審査基準に関し国民に弁解ならびに証拠提出の機会が十分に保障されるべきであることにかんがみ、聴聞を行う場合はもちろんのこと、そうでない場合においても、予じめこれを免許申請者に告知し、又は一般に公表すべきものと解するを相当とする。
ところで、原告は、本件審査に関しては、審査手続の開始前に具体的審査基準を定めてこれを申請者その他の利害関係人に知らせなかつたと主張するので、この点を検討する。
<証拠省略>を綜合すると、本件審査手続前である昭和三六年一月七日付で前記のとおり別紙一の基本的方針の公示をしたこと、そして、被告が、右の基本的方針に則り、短期間に多数の免許申請事案を合理的かつ公平に審査処理するため、内部で、いわゆるハイヤー、タクシー事業に関する行政に長年たづさわつた経験のある職員を中心にして、従来の経験と知識をもととして討論を重ねたうえ、道路運送法六条一項各号の基準に関し、具体的審査基準(同条項三号、五号に関しては被告主張の四つの具体的審査基準)ならびに約五〇項目にのぼる調査事項を作成決定したこと、被告が新規免許申請について現地調査と聴聞を行うことを決めたこと、本件申請後間もなく右調査事項に基づいて現地調査が行なわれたこと被告が右具体的審査基準に基づき聴聞を行なうにあたり昭和三六年五月一三日別紙二の記載のある葉書を同月三〇日行われた聴聞の前に各免許申請者に送つたこと、聴聞の実施については、法人タクシー関係の聴聞担当係官としては、係長級以上の職員一名と一般職員一員を一班として六班を編成して聴聞に当らしめたが、担当係官は事前にタクシー事業の免許について豊富な知識と経験を有する課長補佐を指導者として討議し、講義を受ける等の研修を受け(ただし、聴聞が実施されはじめてから途中応援に加わつた一部の者の中には、以前に免許行政にたづさわつた経験を有することもあつたため特別の研修は受けず、ただ数日見習いをし同僚から説明をきいただけの課長補佐級の職員もあつた)、一定の聴聞事項および聴聞の順序について十分理解したうえ、聴聞事項の印刷してある調査用紙によつて聴聞を行なつたこと、そして各調査結果について予じめ設けられた評価基準に従い評点を付し、一覧表に作成したうえ被告の判定に供したことがそれぞれ認められ、右認定を左右すべき証拠はない。
右認定の事実によれば、被告は本件申請についての審査手続開始前に道路運送法六条一項各号に関し具体的審査基準(同条項三号、五号に関しては被告主張の四つの具体的審査基準)を定立し、これに基づき本件申請その他多数の新規免許申請事案を聴聞のうえ審査を行なつたことおよび別紙一のとおり基本的方針を公示し、かつ、別紙二の通知をしたことが明らかであるが、右の公示又は通知をもつては具体的審査基準を免許申請者である原告に告知し、又は一般に公表したとはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠がない。したがつて本件処分には手続上の瑕疵があるというべきである。しかしながら、本件におけるように、審査(手続)の結果に基づいて処分がなされる場合において、その手続の公正が要請されるのは、処分の内容の適法性、正当性を担保するためであるから、処分の内容が適法、正当である場合には、手続上の理疵は、処分の取消事由とはならないものと解するを相当とする。それゆえ、本件処分に右のような手続上の瑕疵があつても、本件処分の内容が適法、正当である以上、これを取り消すのは相当でないといわなければならない。よつて、つぎに本件処分の内容の適否について判断する。
3 違法理由の二について
道路運送法は、自動車運送事業が公共の福祉にかかわるものであることにかんがみ、これを企業者の任意に任せず、自動車運送事業を経営しようとする者は運輸大臣の免許(権限委員に関する同法一二二条、同法施行令四条により、一般乗用旅客自動車運送事業については陸運局長の免許)を受けるべきものとし(同法四条)、いわゆる免許制を採用しているが、他の営業免許と異なり、一般自動車運送事業についてはもとより、一般乗用旅客運送事業についても、運輸約款、運賃事業の譲渡を認可制とし、運輸の開始、運送の引受けを義務付け、事業の休廃止を許可制とし、運輸大臣に事業改善命令、運送命令等の権限を与えるなど積極的に事業の運営内容に積極的に監督規制を加え、法的に保障しているから、かような免許は免許を受けた者に対し、包括的権利義務を設定する形成的行政処分であり、いわゆる特許の性質を有するものと解せられるが、しかし、前記のように免許の許否が国民の職業選択の自由にかかわること、ならびに同法が抽象的ではあるが免許基準を定めてこれを審査しなければならないとしていることにかんがみ、同法六条一項各号の免許基準に適合するかどうかの判断は、いわゆる自由裁量ではなく、法規裁量に属すると解するを相当とする。したがつて、右各号の免許基準に関し設定された具体的審査基準が、法の趣旨に沿わない不合理または不公平なものであるときは、かかる具体的審査基準を適用して行われた処分は違法な処分といわねばならず、また、具体的審査基準は合理的であつても、これを適用してなされる処分の基礎となつた事実認定に重大な誤認と恣意的判断を含んでいるときは、その処分は違法であるというべきである。なお、同法六条一項は、被告において免許をしようとするときは同項一号から五号までに掲げる一定の基準に適合するかどうかを審査して、これをしなければならないと規定するのみで、免許権者が審査の結果なすべき措置について特に定めるところがないが、同条項の趣旨とするところは、申請事案が審査の結果、同項各号のいずれかの免許基準に適合しないときは、免許しない建前であると解するのが相当である。
(一) ところで、原告は本件審査手続きの開始前に具体的審査基準が仮に設定されていたとしても被告の主張する四つの具体的審査基準だけで競合する多数の申請者の優劣の順位を決定するのは合理的根拠を欠くと主張するが、前記具体的審査基準の作成決定の経緯に徴し、右主張は失当というべきところ、原告は、さらに右四つの具体的審査基準は不合理であると主張するので、この点を検討する。
<1> 資金基準(<イ>出資者ごとの挙証度(貨幣単位をもつて表示する。)を算出し、この累計を各出資者の出資予定額の総計によつて除したものをもつて評点の根拠とする。(ロ)各出資者ごとの挙証度の累計を出資予定額の総計によつて除したものが三〇%に満たない場合には、当該申請はこれを却下することとする。(ハ)資金計画については、聴聞の日提出される預貯金通帳、預金証書、有価証券等および納税証明書(以下預貯金通帳等という。)によつてこれを評価することとし、その評価の結果によつて定めるものとする。<ニ>評価方法はつぎによる。すなわち、各出資者の出資予定額につき、それぞれ提出したところの預貯金通帳等を評価することによつて行なう。各預貯金通帳等の評価割合については別にこれを定めることとする。評価割合は別表三<省略>の評価割合の理由のとおりである。)について、原告は、定期預金の時期、期間のいかんによつて当該預金についての見せ金性の度合を機械的に測定し、その挙証度を算出し、当該預金が他からの借入れによるものであるかどうか、また払込後の事情などについて考慮していないのは不合理であると主張し、この主張には傾聴すべきものを含んでいるが、被告主張のように見せ金を定期預金の形にする場合には、六か月定期よりも流動性の高い三か月定期を選ぶのが通常であるとも考えられるのであるから、このことをもつて直ちに右評価方法を不合理というのは相当でなく、また、原告は出資者の出資予定額の充実見込度合の判断資料を預貯金通帳、預金通帳、預金証書、有価証券の提示に限定し、借入金、保険証書等を除外したのは合理的根拠がないと主張するが、タクシー事業が一般国民に交通手段を提供するものとして公益性が強いため特に健全で安定した経営を持続することが要請されているというべきであるから、被告が資金基準の作成決定にあたり預貯金通帳等現実的で確実性のある自己資金に限つて資金と認めたのは合理的根拠があるということができる。
<2> 車庫前面道路基準(<イ>車庫前面道路の幅員が四メートルに満たない立地条件にある申請は、これを却下する。<ロ>右幅員が六メートル以上ある場合は、満点の評点をなすものとする。<ハ>右幅員が六メートル未満四メートル以上の場合には0点以上満点未満の評点をなすものとする。)について、原告は、一律的に幅員四メートル未満のものは却下するとしているのは、あまりにも形式的であり、幅員に関する評価も不合理であると主張するが、道路交通の安全、円滑を図る見地から建築基準法四三条二項、東京都建築安全条例二七条は、幅員四メートル未満の道路に面して自動車の出入口を有する敷地に自動車車庫を建築してはならないと定められているのであるから、車庫前面道路基準四メートル未満をもつて却下基準としたこと自体は、その基準の適用が形式的、硬直的であつてはならないことは格別として、合理的根拠があるというべき、また、幅員に関する評価は、これを適用するにあたつての免許権者の合理的裁量に属すると解するを相当とする。
<3> 仮眠所基準(仮眠所が整備場の上に位するような施設計画については低い評点をなすものとする。)について、原告は仮眠所が整備場の上に位するからといつて低い評点を付するのは形式的機械的であつて不合理であると主張するが、労務管理の適正を確保するため、仮眠の施設が整備されていることが必要であり、かかる施設が騒音を発する整備場の上に位していない方がよいことは事理の当然であるから、仮眠所が整備場の上に位するときは低い評点を付することにした右基準自体は不合理でないというべきである。
<4> 整備点検場基準(<イ>整備点検場の施設計画のない申請は、これを却下するものとする。<ロ>整備点検場の面積が別に定める基準以上のものである計画については、満点の評点をなすものとする。<ハ>右面積が右基準以下のものについては、0点以上満点未満の評価をなすものとする。<ニ>整備点検場の施設が車庫と兼用の場合は低い評点をなすものとする。)について、原告は、整備点検場の施設が車庫と兼用の場合に低い評点を付するのは、物の機能、効用の面を無視するもので不合理であると主張するが、有蓋車庫は事業用自動車の仕業点検(道路運送車輌法四七条)、定期点検(同法四八条)の確実な実施のため必要不可欠のものであり、かような有蓋車庫と整備場はそれぞれの機能を十分発揮するためには、別個に設備される方がよいことはいうまでもないから、整備点検場の施設が車庫と兼用の場合に低い評点を付するも不合理ではないというべきである。
(二) つぎに、原告は、上記具体的審査基準の適用にあたり本件処分はその事実認定に重大な誤認と恣意的な判断を含んでいると主張するので、この点を検討する。
<1> 資金基準の適用について、原告は聴聞の際に呈示した原告の定期預金等の合計が四、三〇〇万円であつたと主張するが、本件申請書に原告の出資予定額が一、〇〇〇万円である旨記載されていたことは原告の自認するところであるから、たとえ原告が聴聞の際に呈示した定期預金等の合計が四、三〇〇万円であつたとしても、原告の出資予定額が本件申請書記載の一、〇〇〇万円を超えてなされるものとみるわけにはいかない。また、原告は発起人代表であつて商法一九二条による引受けおよび払込担保責任を負う旨主張するが、たとえそうであるとしても、聴聞の時点または本件処分の時点においては、上記のとおり原告の出資予定額一、〇〇〇万円であつたのであるから、その充実見込額を一、〇〇〇万円と判断したのは当然であり、このことをもつて被告の重大な誤認あるいは恣意的な判断というは当たらない。さらに原告は高橋常七ほか六名の出資予定額一、〇〇〇万円についても定期預金についてその満期の早く到来するものほど資金の回転率も利用度も高くなることは明らかである旨主張するがしかしそうだからといつて必ずしもそれだけ事業資本の充実見込みへの期待もしくは可能性が強いとは限らないし、逆に満期の遅く到来するものが満期の早く到来するものに比して、充実見込みへの期待もしくは可能性が弱いともいえない。けだし、定期預金にあつては、前記のとおり、その満期の早く到来するものほど見せ金性が強くまた、その期間が長く、満期が遅く到来するものほどその預金者に資金の余力があるとみることができるばかりでなく、これをその銀行に担保に供して資金の貸付けを受ける場合にもその担保価値が高く、したがつて資金充実の見込みへの期待もしくは可能性も強いとみることができるからである。したがつて、この点について被告の認定を一概に恣意的であると断ずること妥当でない。さらにまた、原告は被告が弥栄化学の評価額を〇と評価したことをもつて不合理、非常識であると主張するが、右会社の昭和三五年度決算書の資産内容の記載が原告主張のとおりであるとしても、<証拠省略>によれば右決算書は聴聞の行なわれた昭和三六年五月三〇日の九か月前(したがつて、たとえば六か月定期預金はすでに満期となつている。)である昭和三五年八月三一日現在における同社の静的な財産状態を示すにすぎず、聴聞の時点における原告の資金計画の充実度を判断するには直接役立ちえないものと考えられるし、また前示のとおり各出資者の裏付けとなる預貯金通帳、預金証書、有価証券等については聴聞通知書に当日持参なきときは挙証なきものとして処理される場合がある旨が記載され原告に通知されたにかかわらず、聴聞の日に同社分についてこれらの書類の呈示がなかつたのであるからこれらのことを総合して考えると被告の右評価をもつて不合理、非常識というのは当たらないというべきである。
<2> 車庫前面道路基準の適用について、原告は、本件申請にかかる車庫前面道路は側溝に蓋をすることが容易であり、かつ、蓋をすれば六メートルの道路として効用を発揮できるものであつたから、被告主張の前記基準によれば満点となるべきである旨主張するが、本件申請にかかる車庫前面道路が蓋のない側溝があるため四〇センチメートル不足し、五メートル六〇センチメートルしかなかつたことは原告の自認するところであるから、右の側溝に蓋をすることが容易であり、かつ蓋をすれば六メートルの道路として効用を発揮できるとしても、蓋をしなければ六メートルに達しない道路と蓋をしなくても初めから六メートルに達している道路との間に評点の上で差異があるのは、けだし当然のことというべく、したがつて被告が本件申請にかかる車庫前面道路に満点を与えなかつたからといつて、右評価が不合理であるというは当たらない。
<3> 仮眠所基準の適用について、原告は、整備場で行う自動車の整備はタイヤの取替え小修理など短時間に容易にできるものに予じめ限定されているから、朝の出庫前すなわち午前二時から七時ないし八時ごろまでに十分にでき、運転者の仮眠中に行われることはない、このことは聴聞の際に担当官に提示した東京整備株式会社との間の契約書によつても明らかである旨主張するが、人の輸送を直接目的とするタクシー業においては、故障による修理、故障または事故が予想される事前措置など多種多様な整備点検がきわめて厳重に要求され、また、これらの整備点検は時間のいかんを問わず行われなければならない性質のものというべきであり、また常務管理の重要性は前示のとおりであるからたとえ右原告主張の事実を認めるとしても、仮眠所基準を適用するにあたつて、これを厳格に解し、本件申請でにおけるように仮眠所が整備場の階上にある場合とそうない場合とで評価を異にし、被告が前者の場合を低く評価したからといつて、このことをもつて右評価が不合理であるとすることはできないというべきである。
<4> 整備点検場基準の適用について、原告は、本件申請にかかる整備点検場が有蓋車庫と兼用になつてはいるが、原告の場合は他に広い無蓋車庫を有しており、これに本件申請にかかる自動車全部を収容しても、余りがあるうえ、整備場も広く、少なくも収容できるから、整備点検としてなんら弊害はないと主張するが、無蓋車庫が、どのように広大であつても、有蓋車庫を備えるのでなければ、計画として十分でないというべきである。けだし、前記のとおり法は事業用自動車の仕業点検、定期点検の確実な実施を要求しているが、雨天、炎天あるいは強風のもとでは、無蓋車庫でこれを実施を図ることはほとんど不可能であるのに対して、有蓋車庫はこれが可能であり、また、雨水あるいは強烈な照りつけまたは冷気から車輌を防護する等の利点があることはいうまでもないから、有蓋車庫があるか否かあるいはそれが車庫専用かそれとも他の施設と兼用になつているか否かによつて優劣がつけられるのは当然のことというべきである。したがつて、被告が原告の場合は整備点検場が有蓋車庫と兼用になつているそして、これを低く評価したからといつて右評価が不合理であるというは当らない。
(三) さらに、原告は、本件申請は免許を受けた関東交通等の場合に比し具体的審査基準の適合性が高いから、本件処分は不公平であると主張する。
しかし、本件申請について多数の競合する申請事案があつたにかかわらず、免許を受けうる者はきわめて僅かであつたことは前記のとおりであるから、かような多数の免許申請者の中から少数の特定の者を選定するには、免許権者としては、予じめ確立した具体的審査基準の適合性を判断し、その評点の総計をもつて優劣の順位を決めるほかはないというべきところ、<証拠省略>を総合すると、関東交通の場合は、申請にかかる土地は当時地目農地であつたか、聴聞の日に宅地化の見込みが十分である旨の農業委員会の文書が提出されていたので、宅地同様に取り扱つたこと、および車庫前面道路の幅員は免許後事業計画変更のため現況のようになつたか、免許申請当時には六メートルであつたことが認められ、また、ツーリングタクシーの場合は、同社の定款については昭和三六年二月八日東京法務局所属公証人久保田春寿の認証があつたこと、車庫前面道路の幅員は免許申請当時四メートルに満たないものであつたが、聴聞の日にこれを接着する部分を幅二メートルにわたつて私道とする旨の証拠が提出されていたので、被告が失点の取り扱いをしなかつたことが認められ、その他の数社の場合もそれぞれ被告主張の事実(第三、三、2(二)(3) )が認められ、いずれも他にこれを左右するに足る証拠はない。以上認定の事実によると、本件申請がこれらの会社の場合に比し具体審査基準の適合性において優位にあつたものとも断じがたく、したがつて、原告の右主張も採用することができない。
三、結論
以上の次第で、本件処分の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 杉本良吉 仙田富士夫 村上敬一)
別紙一
公示
東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の増強について
東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の適正供給輪送力については、昭和三五年七月四日付け東陸諮第五号により東京陸運局自動車運送協議会に諮問していたところ、同年一二月二四日付け東自協答第五号により別紙写のとおり答申があつたので、これを尊重し、同事業の供給輸送力の増強に関する基本的方針を左記のとおり策定したので、道路運送法施行規則第六三条第一項の規定により公示する。
昭和三六年一月七日
東京陸運局長 木村睦男
記
一 今後概ね一カ年間において二、〇〇〇両程度の増強を行う。この場合において、一人一車制の個人タクシーを免許するときは、その供給輸送力を考慮し一輌を〇、五輌に換算する。
二 増車申請の既存事業者および新規免許の申請者に対する増強車輌数の配分については、諸般の事情を慎重に検討した結果、次のとおりとし、各別に審査を急ぎ審査の完了したものより速かに処分をして、増強輸送力の早期実現を期する。
(1) 既存事業者(一人一車制個人タクシーを除く。)に対しては一、二〇〇輌程度について、事業計画変更(増車)の認可を行う。
(2) 新規免許の申請者に対しては残余の輌数について免許を行う。
三 本措置に伴う申請に対しては、道路運送法第六条第一項に規定する免許基準に適合するかどうかについて厳正公平な審査を行うことはもとよりであるがこの場合、特に次の事項を重視するものとする。
(1) 事業計画変更(増車)認可申請について
イ 車輌の管理および道路交通の円滑化に資するため、車庫の立地および収容能力が適切なこと。
ロ 労務管理の適正を確保するため、運転者の休憩、睡眠又は仮眠の施設が整備されていること。
ハ 事業の適正な運営を確保するとともに交通の安全と円滑に資するため、道路運送法および道路交通法等交通関係法令の遵守が適切に行われていること。
ニ 輸送の安全をはかるため、交通事故の防止体制が確立され、その実効が期されていること。
ホ 事業計画の遂行および労務管理の適正をはかるため、運転者の確保の見とおしが確実であること。
へ 供給輸送力の比較的稀薄と認められる地域又は国鉄および私鉄の駅における輸送力の増強に資するよう適切な計画であること。
(2) 新規免許の申請(一人一車制個人タクシーを除く。)について
イ 事業の適正な運営を期するため発起人若しくは役員又はこれに準ずる者の結束力が強固であり、かつ、事業遂行の主体性および自主性が明確であること。
ロ 事業の健全な経営を確保するため、資金計画が健全であり、かつ、資金調達の見とおしが確実であること。
ハ (1) のイ、ロ、ホおよびへの事項
なお、新規に事業を開始する場合の規模としては、健全な経営を期待し得るものとしてニの両程度が適切と考える。
(3) 一人一車制個人タクシー経営免許申請について
イ 一人一車制個人タクシーという特殊な事業形態を認めるに至つた経緯およびその趣旨にかんがみ、概ね四〇才から五五才程度までの年齢であり、概ね一〇年以上の運転経験を有し、かつ、道路運送法および道路交通法等交通関係法令の違反行為により過去三年にわたり行政処分又は司法処分を受けていないこと。
ロ (1) のイおよびへ並びに(2) のロの事項
四 本措置に伴う申請については、申請者の行う挙証に基き、これを審査するが、さらに必要と認めるときは、道路運送法第五条第四項の規定に基き、必要な書類の提出を求めることがある。
五 本措置に伴う申請書は、昭和三六年二月一一日(土曜日)
午後零時三十分までに東京都陸運事務所(東京都品川区大井鮫洲町二一七番地)において受理れるよう提出すること。既に受理された、又は今後受理さされる申請書の追加申請書の提出についても、同様とする。
別紙二
記
1 実施日時 昭和三六年五月三〇日 一三時
2 実施場所 東京陸運局会議室 新宿区四ツ谷一丁目無番地
3 出席者 発起人代表及びその他の発起人
道路運送法第五条第四項にもとづき当日御持参願う書類は次のとおりです。
なお、御持参ないものについては挙証がないものとして処理される場合がありますから、御注意下さい。
(1) 各発起人の居住証明書
(2) 各発起一人の在職証明書
(3) 既存法人の申請人は最近の試算表および決算書
(4) 営業所、車庫等の建物又は土地を所有するときは登記簿謄本、借入又は譲受の場合は契約書(印鑑証明添付)および所有者の登記簿謄本
(5) 都市計画法上および建築基準法関係法令により車庫の建設が支障ない証拠書類
(6) 各出資者の裏付けとなる予貯金通帳、予金証書、有価証券等および納税証明書
なお、申請人においてその他申請内容および証明のため必要とお考えの挙証書類も御持参下さい。
昭和三六年五月一三日
東京陸運局長
別紙三<省略>